心臓の弁手術は日本ではもっとも一般的な心臓手術のひとつです。日本ではバイパスよりも頻繁に行われる手術かもしれません。他の国ではバイパスが多いのですが。
弁の手術ほど手法がかわってきている分野はありません。カテーテルを使った弁手術が欧米ではかなりポピュラーになってきています。どういった治療なのか、どういったひとにむいているのかについて書きたいとおもいます。
通常の弁手術では大きな傷で骨を切り、弁を切り取り人工の弁に取り替える、もしくははたらかなくなった自分の弁をつくりかえて、はたらくようにするという手術です。手術自体はある程度確立されています。
いっぽうでカテーテルで弁を植えつけるというものが近年ひろがりつつあります。これは古い弁を血管の壁におしつけて、そこに金属の裏打ちのついた弁をおいてくるという方法です。非常に低侵襲でできるため患者さんの満足度はたかく、高齢者にとくに好まれる治療となっています。
しかし一方で、この治療は古い弁をのこしてきているためか(?)古い弁と新しい弁の間の血液のよどみがあり、弁に血栓がつくことが指摘されています。したがって、弁の耐久性に疑問を抱く医師が増えてきています。7-10年はもつだろうとされていますが、それ以降についてはよくわかりません。
またカテーテル手術後に弁手術が必要になる場合、通常の2回目の手術よりもより死亡率が高いことがわかってきました。
そこで近年、低侵襲手術がとくに注目されています。この方法じたいは20年以上前からあるのですが、一般的ではありませんでした。しかし、カテーテルと通常の弁手術の間の位置にあり、しかも手術のクオリティは通常手術とかわらないため、こちらの方法が好んでおこなわれています。外科医が習熟している限りにおいて、低侵襲の手術は回復がかなりはやく、社会復帰も通常手術と比較してはやいため、好まれる手術とされてきています。アメリカでは術後2-4日で帰宅ということが多いです。
カテーテルの弁手術はやはり高齢者にむいており、年齢が80台以降は十分考慮すべきであること、また、患者さんの状態がとても悪いときには非常に理想的な治療となるといえます。
それ以外のかたは低侵襲手術が理想的であるとおもいます。しかし、外科医がなんらかの理由ですすめないことがあります。手術は外科医がおこなうので、彼らがむいていないとおもうことを無理してプッシュすることはないでしょう。しかし、他の先生がより習熟していることもあるので、ここはセカンドオピニオンでききにいってもよいところなのかなとおもいます。
私はカテーテルも低侵襲も両方おこなうため、両方のよいところ、悪いところを理解しているようにおもいます。とくに低侵襲弁手術に制限をもうけていません。たぶんほとんどすべての患者さんがなんらかの低侵襲弁手術がうけれるものだと信じています。